オリジナル小説

短編版②『ダンジョンのラスボスに転生して100年。もうやめていい?』

 一番後ろで防壁魔法を唱えていた修道女の防壁を壊し、腹を白い刃のサイスで切り裂く。

 ガラスのような防壁と赤い血が、飛び散る。

 久しぶりの人間の血に、高揚を覚えた。

「ミーシャ!! ちっ!」

 バンダナの男のパーティメンバーは、倒れるミーシャという修道女より、敵の真ん中にいる私に致命傷を与えようと攻撃を仕掛ける。

 先ずは、そばにいた盗賊風の女性の短剣が、眼球目掛けて突かれるから、その手を撥ねた。

 騎士風の男の剣を叩き割り、踊るように回転して、盾の男の足を切り裂く。

 人間って、かなり遅いって、忘れていたわ……。

 最後にサイスを投げるようにバンダナの男に突撃をする。刃のない方を食らって、血を吐いて吹っ飛ぶ。

「とりあえず、この子達、返してもらうわね」

 鎖を拾って、ルーサとジェダイトを引きずって、玉座まで戻る。

 猶予をあげたのだ。

 どうせポーションを常備しているはず。いくら治癒魔法が使える者がいても、ダンジョンに挑む時は必須アイテムだ。

 思った通り、先ず盗賊風の女性とバンダナの男が自分の傷を癒すために青いポーションを飲んでいた。

 一番瀕死になっているミーシャには、騎士風の男が飲ませようとしている。

「あら? それハイポーションかしら?」

 濃厚な青い色に気付く。ミーシャに飲ませているのは、ポーションより格上で希少のハイポーション。

 たちまち、瀕死の傷は治ってしまった。まぁ、別にいいのだけれど。

 殺すつもりはハナからないし、また瀕死に追い込めばいいだけのこと。

 ポーションも切断された手だって、くっ付けていれば治ってしまうのだ。

「くそ!! 吸血鬼並みに速ぇ!!」

 ポーションを飲み干したバンダナの男が、吐き捨てる。

 魔族に分類される吸血鬼は、人間の3倍は速く動けるのだ。

「ああ、私は吸血鬼のハーフよ」

 にこり、と私は教えてあげた。

「はっ! 舐めてんのか! お前!? 自分の弱点を教えたも同然だぞ!!」

「弱点がわかったところで、レベルの違いを見せつければ……絶望するでしょう?」

「は……?」

 とても優しい声で、告げる。

 吸血鬼と認めることは、確かに有名な弱点を認めるということだ。

 けれども、レベルが低ければ、攻撃はあまり効かないもの。

 バンダナの男は、面白いくらい赤面した。

「はぁ!!? ふざけんな! てめぇ自分がレベル上だとかほざくつもりかよ!! 弱点を突かれても、負けねぇってか!? おい、ミーシャ!! やっちまえ!!」

「は、はい!」

 ミーシャがまた唱える。光魔法か。

 玉座に腰を戻した私は、立ち上がる。

 今度は守ると、ミーシャの前には4人が固まった。

 ふむ、今突っ込んだら、誰かの首を撥ねてしまいそうだ。

 まぁいいか。くるくるとサイスを回して遊んでいれば、相手の攻撃が整ったようだ。

 大技らしく、時間がかかったな。

 十字架の形の光の矢が、無数に放たれた。

 サイスを回して遊ぶ延長戦で、その矢をことごとく、叩き折る。

 それだけではない。光の魔法を吸収させてもらったサイスは、清らかな光を放ち始める。

 

「嘘っ……! 私の魔法を、吸収した!?」

「くそっ!! 続けろ! ミーシャ!!」

「っはい!」

「あー、サイスがもうお腹いっぱいだって言ってるから、もうその魔法は要らないわ」

 

 バンダナの男がまた指示を出すけれど、私はにこやかに断った。

 また風のように駆けて、間合いを詰めた私は、盾の男を蹴り飛ばして、バンダナの男の剣を持つ右手を撥ねる。

 そして、サイスを盗賊女の脇腹に叩き付けた。

 騎士がミーシャを守ろうとするけれど、どう見ても弱い。

 そんな騎士ごと、ミーシャを光のサイスで切り裂いた。

 

「ごふっ!」

 

 肩が切り裂かれた騎士は、崩れ落ちる。

 同じく肩を抉られたミーシャは、膝から崩れた。

 ミーシャがなんとか鞄からポーションを取り出す。まだ青いポーションで治せる怪我だろう。

 しかし、ポーションを持ち上げる力がないようだ。

 私は目の前でしゃがんで、ポーションを取ったら、抉られた肩にかけてやる。

 ミーシャは瞠目した顔で見上げてきたから、胸倉を掴んで引き寄せた。

 

「教えてあげる。これから、ポーションが尽きるまで、ゆっくりと全員いたぶってあげるから、頑張ってね。ダンジョンに来たんだから、たくさんポーション持ってきたよね? どれぐらい持つかしら……あなた達の精神」

 

 もう一つ、鞄からポーションを取り出した私は、倒れた騎士にぶっかけてやる。

 ミーシャは青ざめた。ガクガクと震えてしまいそうなほど、真っ白な青い顔。

 恐怖に支配された彼女を見て、私は笑みを深めた。

 先ずは、回復役の心をへし折る。これ定石よね。

 

「あちっ」

「!」

 

 騎士にぶっかけたポーションの残りが指についてしまい、少し痛みを感じた。

 私が吸血鬼でポーションが効くことを思い出したのか、ミーシャは鞄ごとポーションを私に叩き付ける。

 頭からポーションが滴る私は、サイスを落として、鞄を払い除けた。

 

「っ! うっ!!」

 

 ひりひりした痛みが走る。

 

「今だ!!」

 

 ポーションで回復したバンダナの男達が、私に刃を振るう。

 

「なーんてね」

 

 両腕で隠していた顔を晒して、私は嘲る。

 叩き落とすような盾をひらりと躱して、盾男の肩に乗った。このまま首を捻ってもいいけれど、ポーションを使い切るまでいたぶる約束をしたのだ。肩を打撲させるだけに留めた。

 次に折れた剣を振り下ろそうとした騎士の足を潰して、床に着地。

 剣を両手で振り上げたバンダナの男には、タックルを食らわせるようにして、吹っ飛ばした。

 

「言ったでしょう。私はハーフだし、レベルが違うのよ」

 

 ハーフだから吸血鬼としての弱点は、それほど効かない。ひりひりはするけれど。

 それに、レベルが違うのだ。

 サイスを拾おうと振り向くと、わざと落としたサイスのところには盗賊女がいて、拾おうとしていた。

 流石は盗賊。拾うのが早いが。

 

「触らない方がいいわよ」

「っ!? うわ!!」

 

 忠告したが、遅かった。

 盗賊女は、サイスを持ち上げようとしたが、それに失敗してひっくり返る。

 あまりの重さに、驚愕した表情をした。

 

「お嬢ちゃんには、重すぎるのよ」

 

 ひょいっと軽々と片手で持ち上げては、くるりくるりと振り回す。

 

「人間が扱うには重すぎる。だから、このサイスを持ち帰るのは諦めた方がいいわね。壊す、が妥当かしら。壊せるものならね」

 

 私は嫌味ったらしく教えてあげた。

 このサイスが刃こぼれしたことはない。壊せるか、疑問だ。

 

「さぁ、続きをしましょう?」

 

 こつん、とサイスを立てて、私はあざとく首を傾げた。

 

「も、もう退却を!!」

「うるせぇミーシャ!! まだポーションはあるんだ!! 戦うぞ!!」

「っ!!」

 

 ミーシャが退却を望んだが、バンダナの男は一蹴する。

 その言葉が悪かった。

 先程教えた私の言葉を思い出して、ミーシャはまた一層青ざめる。

 ポーションがある限り、いたぶられる。弄ばれるのだ。

 

「嫌!! もう嫌ぁあ!!」

 

 ミーシャが一人で逃げ出そうと、開いたままの扉に向かって走っていく。

 

「ふざけんな!!」

「ミーシャ! 一人ではこのダンジョンから出られないぞ!?」

「行くな! ミーシャ!!」

 

 バンダナの男がぶち切れるが、騎士と盾男は身を案じているようだ。

 腹を切り裂かれて、肩を抉られて、その上まだまだいたぶられるのだから、怖くて逃げだしても仕方ない。

 だって、人間だもの。

 私くらいの魔族になると、手を吹っ飛ばされても、足をもぎ取られても、戦い続けなくてはいけないから慣れたものだ。

 主に父親にされたことだけれどね。吸血鬼の自己再生能力が高くなければ、簡単に死ねたのにって何度思ったことやら。

 ルーサやジェダイトのように、虫の息でも意識がかろうじてあるくらい、魔族は痛みに強いといえるのだろうか。

 

「ビース! 退却しないと!! ミーシャが死んじゃう!!」

「くそっ!!」

 

 バンダナの男ビースが、ミーシャとともに退却することを求められる。

 

「ざけんな!! 難攻不落のダンジョンの大ボスのところまで来たんだぞ!? こんな好機もうねえ!!」

「そうそう。もう中ボスを抜いて、大ボスの私と戦える日なんて、来ないわ」

 

 ビースの言葉に頷いて、私は身を屈めた。

 風のように駆けて、ビースの左足を切断する。

 盗賊女の腹にサイスの刃先をぷすりと刺しては、背を向けてミーシャを追いかけようとする騎士と盾男の背中を一振りで割く。

 そして、廊下を走りながら、また光の魔法を唱えているミーシャを追う。

 私が追ってくることはわかっていたらしく、呪文を唱え終えた。

 十字架の形の光の魔法が放たれるが、それを全て叩き落す。

 サイスに貯蓄された光の魔法を、お返しに振っておく。

 光の刃が飛び、ミーシャの足を切りつけた。走るどころか、立つことも出来なくなるミーシャは、それでも出口を求めて手を伸ばす。

 そういえば、彼女のポーションはもうないんだった。私に全て浴びせたのだ。

 出口を求める手を掴み、私は廊下を引き返す。

 

「嫌ぁ、もう、許してっ! 許してください!」

 

 ラスボスステージに引き戻されることに酷く怯えて、ミーシャは許しを請う。

 

「ここに来たことを後悔してもらわないと、ねぇ?」

 

 私は振り返って優しく笑いかけた。

 

「も、もう後悔してますから! お願いしますっ!」

「まだだめー」

「っ……」

 

 ミーシャが、絶望のあまり絶句している。

 

「図に乗るな!! ”ーー業火よ、食らい尽くせーー”!!!」

 

 ビースが、魔法を放つ。

 私がサイスを持っていなかったら、ミーシャごと黒焦げになっていたではないか。

 サイスで、炎の塊を両断した。

 しかし、それは目くらましだったらしい。

 両断した先に、盗賊女がいた。床に刺さったサイスを踏みつけて、私の顔を目掛けて短剣を突きつける。

 私は少し身を引いて顔を横に向かせて、短剣に噛み付いて受け止めた。

 

「なっ!」

 

 驚くのは、まだ早い。私はそのまま短剣を噛み砕いた。

 口に残った刃の残骸を、ペッと吐いたら、盗賊女の目に入ったようで、悲鳴を上げてのたうち回る。

 

「ミーシャを放せ!!」

 

 騎士が後ろに回って、折れた剣を突きさそうとした。

 私は軽く躱したあと、手首を掴み、軽く握り潰す。

 

「言われなくても放すよ。回復、してもらえるといいわね」

「っ!?」

 

 スタスタと玉座に戻るために歩く私に、盾男もビースも攻撃を仕掛けなかった。

 騎士と盗賊女は、ミーシャに治癒魔法をかけてほしいと頼む。

 しかし、ミーシャは首を横に振るう。

 

「もう嫌!! 一思いに殺して!!」

「ミーシャ、しっかりして!」

「そうだ! 早く手を治してくれ!!」

 

 ミーシャは、完全に心が折れているようだ。

 私に向かって、殺してと叫んでいる。

 

「広範囲の治癒魔法を使うだけでいいから!」

 

 おやおや。

 

「バカ! やめろ!!」

 

 ビースの制止も叶わず、ミーシャの広範囲の治癒魔法が行使される。

 びりびりと私は痛みを覚えるけれど、こんなの日焼けをした程度だ。

 ビース以外は忘れてしまったみたい。

 広範囲の中に、私の手負いの配下が二人いること。

 玉座の前で虫の息だった二人が、立ち上がった。

 パキンと鎖が弾ける。拘束していた鎖を力技で壊した。

 あーあー。貴重な魔法封じの鎖が壊れてしまった。

 深手ではなければこんな鎖、バカ力な二人には容易く破れるか。

 

「愚かな人間ども……! あたしの真の姿を見せてやる!」

「いいや、オレの真の姿を見せて、力の差を示してやる!」

 

 治癒魔法で回復したが、理性が外れかかっている。

 二人して変身しようとするものだから、私はサイスで遮った。

 

「この人間達は、私の獲物よ。敗北者は黙って反省でもしていなさい」

 

 それだけを二人に告げる。

 敗北者と聞き、二人はすぐさま両膝をついた。

 

「「はい、ご主人様……」」

 

 しゅん、と項垂れたところを見ると、反省の色はあるようだ。

 

「も、もう無理!! 殺してぇええ!!」

 

 泣き叫ぶミーシャ。自業自得である。

 そのセリフをビースが叫ぶまで、私は蹂躙してあげたのだった。

 

 

 

 そのあと、恐怖のあまり、気を失った一行をダンジョンの前に捨てておく。

 久々にラスボスを演じたから、疲れた疲れた。

 背伸びをして、玉座の後ろに置いた本を拾おうとしたが、その前に正座している二人を見付ける。

 ずっとその体勢で反省していたのか。

 

「もっ」

「申し訳ありませんでした!!」

「お許しください!! ご主人様!!」

 

 がばっと、頭を下げる二人。

 

「喧嘩もほどほどにしなさいって言ったわよね? 聞こえなかったのかしら」

「いいえ、聞こえていました……それなのに、止められずに喧嘩を続けていました! 申し訳ありません!!」

「申し訳ありませんでした!!」

 

 腰に手を置いて、確認すれば私の言葉は聞いていたらしい。

 やっぱり二人が悪いわね。

 

「その上、あんな奴らに捕まり、醜態を見せてしまい……本当に、申し訳ありませんんんっ!!」

 

 ルーサが、泣いた。

 

「役目を放棄した形になってしまい、申し訳ありませんんんっ!! せっかく、せっかく、ご主人様に任されていたのに!! ごめんなさい!! 命を持って償わせてください!!!」

 

 鼻水まで出しながら、むせび泣く。

 

「オレも、この場で処刑してください!! この命で、償わせてください!!!」

 

 頭を下げたままのジェダイトまで、命で償うと言い出した。

 

「そうね……」

 

 私は右手に握ったサイスを左手に持ち変える。

 

「それくらい反省しているなら、今回限りよ、許してあげるわ」

「えっ!」

「ご、ご主人様……?」

 

 驚いた顔を、ルーサとジェダイトが上げた。

 

「何? 意外かしら?」

「……いいえ、あたし達に寛大なローナローナ様の優しさが、すごすぎて驚いた次第です」

「優しすぎます……」

 

 今度は感動したように泣くルーサ。そして、ジェダイトも、すすり泣いた。

 私が寛大? 優しい?

 恐怖で気絶するまで、人間達をいたぶっていたのに?

 感性がずれているわー、この子達。

 

「とりあえず、仲良く掃除してちょうだい」

 

 返り血で汚れたから、床を掃除するように命じた。

 

「は、はい!」

「オレ一人で十分です!」

「バカ! ご主人様は二人で仲良くしなさいって言ったじゃない!」

「ならば、喧嘩腰になるな!」

 

 口喧嘩しつつも、掃除を始める二人を見て、また声をかける。

 

「久しぶりに、皆でご飯食べる?」

 

 もちろん、私の手料理だ。

 ぱっと輝かせた目を向けて、二人は激しく首を縦に振った。

 

「はい!! もちろんです!!」

「いただきます!! ぜひ!!」

 

 もう少しだけ、ここのラスボスを務めようか。

 なんて、思ったのだった。

 

 

完。

ABOUT ME
mitukibeni
三月べにです。 埼玉在住。 二十代女子。

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