オリジナル小説

短編版①『ダンジョンのラスボスに転生して100年。もうやめていい?』

あらすじ【気付けば、異世界で魔族に転生していたローナローナ。 転生から100年が経った今、難攻不落のダンジョンのラスボスやっていた。 しかし、そろそろ引退をしたいのだけれど、だめですか?】

 なんてことのない人生だった。

 時には幸せで、時には不幸せで、でもちゃんと息が出来た。

 地球という平穏な時代で、何不自由なく育ち、人生を終えた。


 そんな私が生まれ変わったら、人間の敵である魔族になろうとは……。


 そりゃ本で異世界転生を読んでいたから、来世に少なからず期待もしていた。 楽しい人生を、異世界で過ごしたいと。 しかし、現実はとてもダークだった。

 異世界、アークシェント。

 私の両親は、魔族。母親は私を産んで亡くなった。

 そのせいか、父親には厳しく育てられたのだ。

 それとも、後継者として、厳しく育てたかったのだろうか。

 父親の名前は、ダリアオン。悪の四天王の一人、あるダンジョンのラスボスである。

 巨体な身体に鋭利な牙とツノを生やし、大剣を振り回す大鬼だった。

 魔族は人間の敵だった。魔物を操る力を持ち、優れた魔法も扱う。ダンジョンを生み出したのも魔族である。

 人間はダンジョンを攻略し、宝を求めた。魔族が人間から奪ったものから、魔族が生み出した魔具まで。

 人間はそんな欲で、ダンジョンに挑んだ。

 母親似なのか、私は人間とさして変わらない姿で成人を迎えた。

 長い黒髪、深紅の瞳、美人と称せる顔立ち。胸はまぁまぁ膨らみ、晒したくびれは引き締まっていて、手足もほっそりしている。

 けれども、自分の丈ほどのサイスを振り回せる辺り、人間とはかけ離れているのだろう。

 白い刃のサイスは、色んな魔法に対応できる優れものだ。例えば、相手の火の魔法を切れるし、自分の火の魔法を纏うことも出来る。それが父親から与えられた最後のものだった。
 父親であるダリアオンは、人間に殺されたのだ。

 とある人間のパーティが、父親のダンジョンを攻略して、そしてラスボスである父親を仕留めた。

 ただそれだけの話である。

 そう思ってしまうのは、やはり私が魔族である証なのだろうか。

 人間だった前世なら、泣いているところだ。 

 でも、喪失感だけを覚えても、不思議と涙は出なかった。

 私は、そのダンジョンの新たなラスボスとなった。

 父親が殺された場所で、訪れる人間達を阻む。

 狙いは、私の持つサイスだろうか。

 訪れる人間達を負かせているうちに、金品が貯まっていった。それが財産となっていく。

 こうして、ダンジョンの宝となっていくのだろう。なんて、他人事のように思った。
 私は負けなかった。

 どんな人間が来ようとも、サイスを片手に振り回して、魔法を放ち、勝ちをもぎ取ってきたのだ。

 いつしか、私のダンジョンは難攻不落と呼ばれるようになったらしい。

 でも、誰も気づいていないようだ。

 私がーーーー人間を誰一人として、殺めていないということを。

 私の元に辿り着いた人間に、とどめは刺さなかった。

 人間だった前世が、そうさせるのだろうか。

 それでも人間に手を差し出したこともなければ、親切にダンジョンの外まで送ったこともない。だから、どちらにしても死んでいたのかもしれないか。

 そんな悪の四天王の一人をこなしていれば、あっという間に100年が過ぎた。
 そろそろ、やめてもいいかしら?

 認めよう。私は魔族である。そして悪の四天王の一人だ。

 それなりに人間を傷付けていたし、結構楽しんでいたところもある。バーサーカーなところ、あるある。

 けれども、そろそろいいだろう。100年も務めたのだから、私は引退してもいいんじゃないか。

 父親が後継者と望んだから、一応ダンジョンのラスボスを務めたけれど、100年も守ったのだ。十分でしょう。

 密かに人間の街に行っては買っていた小説も、もう読み尽くしてしまったし、ここにいることに飽きてしまった。

 後継者を適当に選んで、私は隠遁生活を送ろうか。

 真剣に考えていた。

「ご主人様が引退をする? ご冗談を!!」

 ダンジョンの最上階で、各階の中ボス各から、後継者を選ぼうとしたのだが。

 笑われてしまった。冗談じゃないんだけれど。

 私もそろそろ、へそ出し闇の踊り子風の衣装を卒業したい。

 コロコロと笑うのは、同じく闇の踊り子風の衣服に身を包んだ女の子。額には二つの小さなツノが生えているし、隠している口元には牙があるのだ。 難攻不落のダンジョンだと、言われるようになってから、魔族がこぞって集まってきた。

 我こそが中ボスを務めると、名乗りを上げたのだ。 その中の一人だったその女の子の名前は、ルーサ。一番付き合いが長い。

「ご主人様、何故そのようなことを言い出すのですか?」

 笑うことなく、質問をするのは、ルーサと犬猿の仲のジェダイトという名の魔族の男である。

 真っ青な顔をしていて、大きな青いツノが右の頭に生えている。それはサファイアらしい。

 彼、は黒い軍服のようなものに身を包んでいた。

「ご主人様が冗談を言ったのなら笑えばいいのよ! そんなこともわからないなんて、ほんとバカな男!」

「なんだと!」

 始まった。犬猿の仲の二人の喧嘩。

 中ボスを務めるほど、二人は強い。いや、むしろ、ダンジョンのラスボスを務めてもいいんじゃないかったくらいは強いはず。

 だから、この二人のどちらかが私の後任でいいと思うけれど、喧嘩をしてもほぼ互角なのだ。

 きっと勝った方がラスボスに決定と言い出しても、きっと冗談だと決めつけられるのだろう。

「喧嘩もほどほどにしなさい」

 それだけを声をかけて、私はその場をあとにした。
 翌日。ラスボスとしての定位置である玉座の上。右側のひじ掛けに両足を組んで乗せてだらしなく座っている私は、お気に入りであり未完成の長編小説を読み返していた。

 作者が病死したとかで、未完成だけれど、私としてはド好みの恋愛小説である。好きすぎると何度も読み返してしまう癖があって、もう初版であるその本はボロボロだ。

 そういう好みは、前世から受け継いでいるらしい。

 でも悲しきかな。人間の人生の短さと命の脆さを、噛み締める。

 私の寿命を分けられるものなら、分けてあげたかったものだ。そして生きた分、もっと書いてほしかった。この物語の終わりまで。 百年という月日は、結構長いようで短かった。

 振り返れば、長かったようで短いものだと、しみじみ思う。

 中ボスを務めるルーサが来るまでの70年は、人間達を蹴散らしては追い返していたけれど、ここ30年はラスボスステージである私の玉座の間に、人間は足を踏み入れていない。だから、私は飽きていたのだ。暇で暇で、仕方ない。 私のダンジョン、つまり迷宮の城は、魔物を生み出す。

 魔物を懐柔するのは、魔族にとって犬にお手をさせるくらい簡単なこと。 ボロボロと壁や床から出現する魔物が徘徊している上に、ラスボス並みに強い二人が決まった階で待ち構えているのだ。

 なんでも、ルーサとジェダイトが強すぎて、暇になってしまうからと、交互に待ち構える場所を変えていると聞いたことがある。

 ずるい。私も代わってほしい。 むしろ、もうこの玉座あげる。 私のいる最上階が六階。四階と三階が、中ボスエリアである。

「ん……?」

 微かに、城が揺れた。

 珍しく下の階で、激しい戦闘が行われているみたいだ。

 流石に、ここまでは来ないだろうけれど……。

「暇だ……」

 私は本をぱたむっと閉じて、自分の背中を伸ばした。

 次第にうとうとして、目を閉じる。

 しかし、気配を感知して目を開く。

 久しぶりだが、間違いない。これは、人間の魔力だ。近付いてくる。 私はお腹に置いた本を玉座の後ろに隠して、座り直して頬杖をついた。

 人間が来るってことは……ルーサも、ジェダイトも、負けたのか? それしか、考えられないか。

 さもなきゃ、来れるはずがないのだ。このラスボスの部屋には。

 死んだ……のか。

 勝手に「ご主人様」と慕って来たあの騒がしい二人が、もういないのかと思うと、魔族でも寂しさを感じた。

 あまり料理を作らない魔族だから、私が作った料理には大袈裟なぐらい舌鼓していたあの二人。

 嬉しそうに美味しそうに食べてくれたあの二人。

 私を慕う配下ーーーー。

「……ふぅ」

 一息ついて、私はサイスを握った。

 父親の敵討ちは出来なかったけれど、二人の敵討ちをしよう。

 とどめを刺すかは、わからないけれど……。

 やがて、扉が開いた。

 驚かされる。

 真っ先に目にしたのは、ルーサとジェダイトだったからだ。

 二人ともかろうじて息はあるようで、血まみれな身体をどしゃっと床に倒した。

 拘束されている。魔法封じの効果でもある鎖だろうか。

「お前だな! このダンジョンの大ボス! それにしても小さいな! ほとんど人間にしか見えねぇ!!」

 ドッとジェダイトの背中に足を置いたのは、三十手前くらいの年齢の男だ。 バンダナをつけていて、手綱のように、鎖をしっかり握っていた。

「何が難攻不落のダンジョンだよ! 魔族の二人は仲間割れして、手負いだったから、この通りだ! オレ達は無傷でここまで来れたぜ!?」

「……」


 なるほど。

 昨日からずっと喧嘩を続けていたのか。

 だから、二人とも負けたのかよ……。私がしっかり止めなかったことが、原因かしら。

 いやどう考えても職務放棄して喧嘩を通り越して殺し合いをしていた二人が、悪いんじゃないか。

 私は呆れ顔になってしまったが、男は得意げに言葉を続けた。

「全く! チョロすぎるだろうが! 前に攻略したダンジョンの方がまだ手強かったぜ!? ここ100年、誰も攻略出来てないって聞いたが、嘘だろ! それとも来た冒険者達が弱すぎたのか!? どうなんだよ! 大ボスさんよぉ!」

 他のダンジョンを攻略した、という情報を得た私は納得する。 きっと魔法封じの鎖は、その際に手に入れた宝だろう。

 難攻不落のダンジョンのラスボスだからなのか、他のダンジョンのラスボスから挨拶しに来たことがあった。

 記憶を掘り起こして出てきたのは、10年前ほどに挨拶に来た気弱な印象を抱く死人使いの魔族。そう言えば、私に献上すると鎖を渡そうとしていたっけ。あれと似ている気がする。魔法封じの鎖なんて、結構レアなものだ。でも献上とか受け取る理由もなかったから、要らないと突っぱねたのだった。

 その死人使いの魔族がラスボスを務めたダンジョンを攻略した、か。 バンダナの男のパーティは、目で確認できるだけで六人だ。一人、明らかに治癒魔法と光魔法が使えそうな修道女風の格好をした女性がいる。きっと彼女の力で攻略したのだろう。死人使いに、光魔法は大打撃だ。

 後任は誰になるのだろう。なんて、一瞬気が逸れてしまった。

「この私に質問しているのかしら?」

 私は自分の黒髪を指で弄びながら、確認した。本当に私の返答を待っているのか。

「当たり前だろ!」

 ニヒルな笑みで余裕綽々な男は、返事をした。

「ここ30年は、人間と戦っていないから、知らないわ」「はっ! 30年もそこでふんぞり返っていたのかよ! 腕が錆びてるんじゃねーの?」「そうかもしれないわね。あなた達には、いいハンデじゃないかしら?」「……言ってくれるじゃねーか」

 バンダナの下で、青筋が立ったものだから、嘲笑う。

 確かにこの玉座でふんぞり返って、小説を読み耽っていた。

「私からも一つ訊きたいのだけれど、どうしてその二人を拘束して連れてきたのかしら? 人質のつもりかしら」

「はっ! 魔族が仲間を見捨てる冷酷な種族だってことは知っている! ただこいつらが、大ボスであるアンタだけには勝てるはずないって言うものだからな。アンタが負ける姿を見せてやろうと思って連れてきた! なぁ!? そうだろ!? 小鬼魔族!」

 バンダナの男がルーサの髪を掴み顔を上げさせたものだから、ルーサが「うぐ!」と小さな悲鳴を洩らす。

「も、申し訳……っございません、ご主人様っ」

「はははっ! 負けてごめんなさい、だとよ!」

 か細い声で謝罪するルーサ。 高笑いして、バンダナの男は代弁する。

「そう。それじゃあ、始めましょうか」

 私は重たい腰を上げて、トンとサイスを杖のように立てた。

「我が名は、ローナローナ! かかってくるがいい! 愚かなる人間ども!」

 ここ100年使い古したセリフを吐いて、相手の動きを待つ。

 ーーーーと見せかけて、私は風のように駆ける。

短編版②『ダンジョンのラスボスに転生して100年。もうやめていい?』|三月べに (3beni3hane3.com)

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mitukibeni
三月べにです。 埼玉在住。 二十代女子。

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